2.有期雇用契約の更新期待が認められたが、労働者の不適切行為により雇止めが有効と判断された事案(東京地判令和5年6月14日令和4年(ワ)第4284号)

(事案)
有期雇用契約が更新されることに合理的な期待があると判断されたものの、労働者の女性従業員に対する度重なる不適切行為を理由として雇止めが有効と判断された。

(経緯)
 労働者X(以下「X」という。)は、平成30年3月18日に、被告会社Y(以下「Y社」という。)との間でアルバイトとして、契約期間を同月31日までとする有期雇用契約を締結し、令和3年9月30日まで、合計7回契約が更新された。
 しかし、Y社は、「業務命令や指示に従わないため度重なる指導を行うも繰り返し、改善されない場合は契約更新に影響が出る旨を通達するも改善されなかったこと」を理由に、令和3年9月30日をもって、Xの契約を更新せずに雇止めを行った。
 そこで、XがY社に対し、雇止めの無効地位確認請求訴訟を提起した。
 
 Xの女性従業員に対する不適切行為は、おおよそ次のとおり。
①平成31年2月ごろ、Xは、女性従業員E(以下「E」という。)に恋愛感情を抱き、かわいいですねと発言し、またLINEでEと2人きりで話したいといったメッセージを送るなどした。
この行為に対し、Xは、Y社の店長補佐職の社員Hから、ハラスメント行為に関する注意事項が記載された冊子を手渡された。
 しかし、その後もXは、Eに交際を求める内容のメッセージをLINEで送った。
 平成31年3月、Eから相談を受けた店長のI(以下「店長I」という。)は、EがXとシフトが被らないように調整し、またXに対し「Eに対して業務時間外の連絡、接触を行うことや業務時間中も業務に関係しない事項で連絡や接触を行わないよう」に注意指導した。
 
②令和元年5月以降、Xは、女性従業員F(以下「F」という。)に対し、「かわいいですね」などの発言を行ったことから、Fは店長Iに対し、原告の発言が不快である旨を告げ、店長Iは、Xに接し方について注意をした。
 その後、Xが他の従業員に対し、やっぱりEはかわいいなどの発言を行ったことなどから、複数の女性従業員から店長IにXを辞めさせてほしいなどの要望が出された。
 これを受け、店長Iは、Xに対し、EやFに対する行動を注意したにもかかわらず人間関係が改善されていないと注意した上で、退職か勤務時間を短縮しての雇用か選ぶように伝えたため、Xは退職を選んだ。
 しかし、Xは、退職を強要されたとして、Y社の内部通報窓口に相談したところ、コンプライアンス課所属社員M(以下「M」という。)から、Xの退職が取り消されること、Xの行為がセクハラに該当することを伝えられた。
 加えて、Mは、Xに対し、セクハラ行為を注意し、以後セクハラとなる言動、相手に不快感を与える言動は一切しないことが雇用継続の条件となること、今後改善がみられない場合、就業規則に則り、処罰の対象になり、雇用契約を更新しないこともあると伝えた。なお、当該注意後も、Xの雇用契約は2回更新された
 その後、Xは、再度Eに対する業務外の連絡をLINEで送るなどの行為を繰り返し、店長IからEらに接触しないように注意した。
 
③令和2年11月、Xは、Fが女子トイレを清掃している際に、男子トイレに行きたいから鍵を借りたいと告げ、Fから鍵を受け取ったが、Xはトイレを利用することなく、店舗に戻ろうとするFを追いかけ、Fと喋りたいだけである旨を伝えた。
 当該Xの行為につき、店長I及びエリアマネージャーP(以下「P」という。)は、Xと面談を行い、E及びFに対して業務時間外や業務時間中にプライベートな内容で話しかけないこと、業務時間中に必要最小限の業務に関すること以外は話をしないことを伝えた。
 しかし、令和3年4月、Xは、Fが男子トイレを清掃している際に、トイレのドアをノックして「Fさん、なんで今日も話しかけてくれないのか」などとドア越しで話しかけたため、Fは、トイレの中から泣きながら、前店長Iに電話をかけ、Xの行為が怖い、どうすればよいかと尋ねた。
 Fがトイレから出た後、XはFを追いかけ、他の従業員を交えて話を行ったが、就業時間中であったことから、閉店後にもう一度来ると伝え、帰宅し、閉店後再度店舗を訪れた。
 Xが再来店した時には、新店長R及び別従業員がおり、新店長Rから、Xに対して、Fに業務に関係のない話をしないように指導した。

【裁判所の判断】
(結論)
Xに有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったといえるものの、Xの各行為を踏まえると、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとはいえない。
 
(理由)
1 契約が更新されるものと期待する合理的理由の有無
(ⅰ)3年半に渡り7回、労働契約がXとY社との間で締結されていたこと、(ⅱ)原告の内部通報により原告の退職が取り消されたこと、(ⅲ)Mから雇用契約継続の条件としてセクハラとなる言動等を一切しないことを指摘されたが、店長I等とEやFとの接し方などで複数回面談を実施した物の、契約が更新されない可能性があるなどの指摘をしていないこと、(ⅳ)Mの指摘以降も2回、契約が更新されたことからすると、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったといえる。
 
2 雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか
(ⅰ)Fは、Xの言動を不快に思い、店長Iに相談しており、Xは、店長IからFが嫌がっていることを伝えられ、接し方などについて指導を受けていたが、Fに対する接し方が改善されなかった。
(ⅱ)Xは、令和2年11月に、Fが掃除をしているトイレのドアをノックし、トイレから出てきたFを追いかけて話しかけた上、Fと話をするために再来店し、Fが原告と話すことを嫌がっていることが明らかであるにもかかわらず、Fに話しかけており、当該行為は、従前からXの言動に不快感を抱いていたFに対し、恐怖や不快感を強く感じさせ、多大な精神的苦痛を与えるものであった。
しかし、Xは、令和3年4月、Fが掃除をしていたトイレのドアをノックし、Fが一切話さず、嫌がっていることは明らかでありながら、ドア越しに一方的に話しかけた上、トイレから出てきたFを追いかけて話しかけ、その後も閉店後の店舗に再来店してFと話をしようとしており、Xは、わずか5か月弱で、Fに対して同様の行為を行い、Fが泣きながら店長Iに電話していることからも、Fに対して与えた精神的苦痛は極めて大きいものであった。また、閉店後に店舗に来店することは、店舗に与える影響も小さくない。
その後、Xは新店長Rから、E及びFに対して業務に関係ない接触をしないように注意を受けたにもかかわらず、同年6月に、Xの休日にわざわざ店舗を訪れFに話しかけ、度重なる指導にもかかわらず、改善がみられなかった。
(ⅲ)その他、Xは、他の女性従業員に対する不快感を与える行動を度々行い、またE及びFとXのシフトが重ならないように配慮していたにもかかわらず、Xが勤務終了後、Fの就業時間中に再来店したり、Xの休日にわざわざ店舗を訪れてFに話しかけていることなども合わせ考慮すると、雇止めが客観的に合理的を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとはいえない。

【参考条文】
労働契約法第19条柱書及び第2号
「有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。」
「第2号 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。」

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