Q9.SNSのなりすましアカウントを
開示請求するには?

【結論】
 なりすましアカウントによる投稿が、
第三者を誹謗中傷する内容や、本人を性的対象とする内容などの場合には、本人の名誉権や名誉感情を侵害することを理由に開示請求が認められる可能性があります

【解説】
 発信者情報開示請求が認められるには、開示請求する人の権利が侵害されたと認められる必要があります。

 ここで、なりすましアカウントによる投稿がされることで、なりすまされた本人(以下、単に「本人」といいます。)のいかなる権利が侵害されたといえるかが問題になります。

1 アイデンティティ権

 対象となる権利として、まず挙げられるのが「アイデンティティ権」です。裁判例においても、請求者がアイデンティティ権の侵害を理由として請求する事案をみかけます。

 そもそも、アイデンティティ権とは、「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」と定義されており、過去の裁判例でも、「不法行為法上保護される人格的な利益になり得ると解される」と判断しています(大阪地判平成29年8月30日)。

 もっとも、アイデンティティ権(他者から見た人格の同一性に関する利益)の内容は明確ではないため、他者から見た人格の同一性が偽られたからといって直ちに不法行為が成立するわけではありません。

 そのため、アイデンティティ権が侵害されたか否かは「なりすましの意図・動機,なりすましの方法・態様,なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して,その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうか」を判断されることになります(前掲大阪地判平成29年8月30日)。

 このように、アイデンティティ権の侵害を理由とすることも考えられますが、裁判実務上、アイデンティティ権の侵害を理由として開示請求が認められた事案が少ないため、後述のように、名誉権や名誉感情の侵害を併せて主張することが多いと思われます。

2 名誉権・名誉感情

 次に、名誉権・名誉感情の侵害が挙げられます。

 例えば、なりすましアカウントの投稿が他者を誹謗中傷する内容である場合、第三者が対象の投稿を見た際に、本人が誹謗中傷投稿をする人物だという印象を与えることになります。

 このように、なりすましアカウントによる誹謗中傷投稿がされることで、本人の社会的評価を低下させることになることから、名誉権の侵害に当たります。

 また、例えばなりすましアカウントが、性的な投稿をした場合、本人が投稿内容にあるような性的趣向や貞操観念を持つ人物であるという印象を、当該投稿を見た第三者に抱かせることから、本人を侮辱するものとして、名誉感情の侵害に該当します。

 以上のように、なりすましアカウントの投稿内容を踏まえて、アイデンティティ権と名誉権・名誉感情の侵害を併せて主張することが法律上の主張として考えられます。

 では、実際に、なりすましアカウントによる投稿に対して開示請求が認められた裁判例を紹介します。

【なりすましアカウントにより誹謗中傷投稿がされた事案(東京地判令和6年3月12日)

[事案の概要]

 被告(誹謗中傷者)は、X(Twitter)において、原告(本人)のX上のアカウント名とプロフィール画像(プロのイラストレーターに依頼して描いてもらったイラスト)と同一のアカウント名とプロフィール画像を使用したなりすましアカウントを作成した。

 被告は、なりすましアカウントから、スプラトゥーンに関する投稿を行い、その投稿において、ゲームに関する感想のほか「頭の病気か?」、「ほんとにキモすぎる」、「臭い」、「臭すぎ」などという投稿を行っていた。

[裁判所の判断]

(1)本件アカウントは、原告アカウント名と類似したアカウントと、原告アカウントと同一のプロフィール画像を使用し、また、プロフィール文章内で本件アカウントのメインとなるアカウントが原告アカウントであることを示したものであって、一般の閲覧者に対して、原告自身が開設したアカウントであると誤認させるものということができる。

 (2)そして、本件各投稿は、話題となっているゲームに関する知識がないとその意味を正確に理解することは難しいものの、「頭の病気か」「嫌われてそう」「キモすぎる」「臭い」など、それ自体で第三者に対する誹謗中傷に当たり得る文言が用いられていることからすると、本件アカウントの一般の閲覧者に対して、原告が本件各投稿のような第三者に対する誹謗中傷を行っているという印象を与えるものであって、原告の名誉権及び名誉感情を侵害するものと認められる。」

 と判断し、発信者情報開示請求を認めました。

 なお、本裁判例では、アイデンティティ権に基づき、なりすましアカウントの削除も請求されていましたが、
他方、本件アカウントの削除は、本件アカウントを用いた情報発信(本件アカウントでの投稿は、そのすべてが第三者に対する誹謗中傷を内容とするものではない。)それ自体を阻害するものであって、本件アカウントの保有者が関与しない本件手続においてその当否を判断することが相当とは言い難い。」として、アカウントの削除を認めませんでした。

【なりすましアカウントにより性的な内容の投稿がされた事案(東京地判令和4年5月6日)】

[事案の概要]

 原告(本人)は、Twitter(現:X)に、自身がマスクをした状態の顔が写った写真を自身のアカウントからアップロードした。

 被告は、原告が投稿した写真を加工し、プロフィールページの背景やアイコンに使用したなりすましアカウントを用いて、「SEX依存症」などの性的な記載がされた投稿を行った。

[裁判所の判断]

本件各投稿のうち、最も投稿時期の遅い投稿は、「やりまんこ」などと不特定又は多数の男性と性的関係をもつような女性であることを想起させるような言葉を本件写真に書き込んだ上でプロフィールページの背景画像やアイコンに使用して投稿されており、原告を性的な表現の対象としているものと理解できる。
 そして、投稿のうち、「ピンサロ勤務10年」との表現は、原告がいわゆるピンクサロンのような性風俗店において10年間勤務していたことを摘示しているものといえる。一般に我が国の風潮において性風俗店において勤務することは否定的評価を受ける風潮があり、上記のような表現は、原告が貞操観念に欠如した人物であるとの評価、印象を与えるものであることからすれば、原告を侮辱する表現であるといえる。」
「そして、これらの侮辱的表現が、社会通念上許される限度を超えていることは明白であるといえる。このような表現を行うことについて違法性阻却事由も認められない。
 したがって、投稿は、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものであると認められる。」

 と判断し開示請求を認めました。

 以上のように、なりすましアカウントの投稿内容が他社を誹謗中傷するようなもの、本人の貞操観念が欠落しているというもので、投稿の内容から本人の社会的評価を低下させるものと認められる場合には、なりすましアカウントの開示請求が認められるものと考えられます。

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