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【判断の要旨】
会社から労働者に対して行われた複数の行為のうち、減給処分、上司からの発言及びけん責処分について、いずれも理由がないため違法と判断しました。
本裁判例は、違法と判断した理由に、労働者に非はあるものの、会社における勤怠管理が不適切な運用方法をとっていたことから、労働者のみが責められるものではない旨を挙げており、処分の相当性判断に会社側の事情を考慮したことが特徴です。
【事案の概要】
労働者Xは、平成19年に情報システムの設計、施工、保守及びコンサルタント業務等を目的とする会社Yに入社し、平成30年7月から令和2年2月末日までA支店で勤務していた。
なお、平成30年7月にA支店に配属後、支店内の事務業務を担当していたが、同年12月からは、従前の業務に加えて採用に関する業務も担当することとなった。
労働者Xは、令和2年3月1日に、D人材戦略管理部に異動となった。
会社Yは、同月31日、会社Yの賃金規程39条1項本文の定め(原則、毎年4月1日に「降給」を含む賃金改定を行う。)に基づき、「A支店の業績不振(採用純減)等の評価」を理由として、同年4月分から労働者Xの給与を1割(月額2万4200円)減額した (本件減給)。
労働者Xは、同年5月1日に営業部に異動し、同年8月1日にBPO課に異動となった。これらの前後を通じて、E取締後は、労働者Xに対し、残業の内容の説明や裏付け資料の提出を求めた。
労働者XのBPO課での上司であるG部長は、同年9月4日及び10日、労働者Xと面談し、残業代の請求をすると労働者Xの人事評価が下がるので止めた方がよい旨の発言(G部長発言)をした。
会社Yは、同年11月6日、労働者Xに対し、同人がA支店で勤務中の同年2月3日に上長に届けないままに事務所に残って他の従業員とほぼ業務に関係ない内容の電話通話を約2時間30分もした上に、その通話時間分について時間外手当を請求したとして、けん責の処分をした(本件けん責処分)。
【裁判所の判断】
1 裁判所が認定した事実
・勤怠報告問題関係
労働者Xは、平成30年12月頃に採用業務を担当することになって以降、担当する業務量が増え、会社Yに報告した退社時間よりも遅くまで事業所内で就労していることがあった。
会社Yにおいて、従業員が残業をする場合には、事前に残業内容を及び残業時間を報告して上長の承認を得た上で、事後にも、勤怠システムを通じて承認を得ることとされていた。
もっとも、実際には、上長の承認を得た上で、特定の時間外労働時間を、特定の日の遅刻、早退、休暇等の時間とあたかも相殺し、時間外労働と遅刻、早退休暇等とのいずれもがなかったような取扱い(会社Yにおいて、「残業調整」と呼ばれることがあった。)がされることもあった。
労働者Xは、令和元年7月から同年11月までの間、既に支店長から降格されていたF元支店長及びJ部長に対し、予め「残業調整」として午前10時や午前11時に出勤する旨メールした上で遅刻したりすることがあった。それらの日についても、労働者Xは、勤怠システム上では定時に出勤した旨の報告をしていた。
A支店において、労働者Xの勤怠の管理者はA支店長であり、ほとんどの時期について、A支店の支店長はH執行役員であった。もっとも、同人は、A支店には常駐していなかった。
労働者Xは、令和2年2月3日、A支店の事業所内において、他の事業所の従業員と午後10時30分から約2時間30分にわたって通話をしていた。同通話においては、業務外のことにも話題が及んでいた。労働者Xは、当該通話中の時間も残業時間でありとして割増賃金を請求した。
2 裁判所の判断( 会社Yの安全配慮義務違反又は使用者責任の有無)
(1)まず前提として、会社Yにおける勤怠管理の問題性について判断しました。
勤怠報告問題について検討するに、その内容は、労働者Xが、実際には遅刻しているのに、あたかも遅刻をしてないように勤務時間の報告をしていたというものであるところ、少なくとも会社Yにおける正式な勤怠報告の方法に則っていないことは明らかである。
しかしながら、会社Yにおいては、特定の時間外労働を、遅刻、早退、欠勤等と相殺したことにして、勤怠報告上はあたかも所定の始業時刻から終業時刻まで勤務したこととする残業調整が行われていた実態があったところ、労働者Xには、割増賃金を支払われていない残業時間があったことが認められ、労働者X自身も一貫して残業調整の趣旨であった旨述べていることからすれば、労働者Xは残業調整を行う趣旨であったものとみることができる。
この点について、労働者Xは、当時のA支店長であったH執行役に対して残業調整を願い出ていたわけではないが、H執行役はF元支店長の降格のために一時的にA支店長を務めたにすぎず、実際にはA支店には常駐していなかったのであるから、労働者Xが上司であるJ部長や、F元支店長に残業調整の連絡をしていたのはやむを得なかったといえる。
また、労働者Xは、遅刻をするに当たって、相殺の対象とすべき時間外労働を特定していないが、J部長及びF元支店長から、その点について何ら指導を受けていなかったことからすれば、この点をもって、残業調整として許されないものだったと評価するのは労働者Xにとって酷である。
以上によれば、勤怠報告問題については、労働者Xが適切な勤怠報告をしていなかった点について問題がないとはいえないとしても、そもそも会社Yにおいて残業調整などという不適切な勤怠管理が行われる状況を放置していた上に、労働者Xの上司も労働者Xの勤務報告を黙認していた以上は、労働者Xに対して適切な勤怠報告の在り方について指導をすることはできるとしても、労働者Xに対して行える非難の程度には限度があるといわざるを得ない。
その上で、会社Yが労働者Xに対して行った各処分の違法性を判断しました。
以下、減給処分、G部長の発言及びけん責処分の判断を抜粋します。
(2)本件減給について
本件減給は「A支店の業績不振(採用純減)等の評価」を理由とするものとされていたが、会社Yは、本件手続において、他にも種々の理由があった旨の主張をする。しかしながら、会社Yの主張は、いずれも後付けのものとみざるを得ない。
採用に関する業務は労働者Xの従前の業務に加えて行うこととなったものであり、当該業務が労働者Xに時間外労働を生じさせるようなものであったことに照らせば、仮にその成績について十分でない点があったとしても、労働者Xに対して1割もの減給をする理由になるものとはいえない。
そうすると、会社Yにおける賃金改定の制度を前提としても、本件減給は、違法なものといえる。
(3)G部長発言について
G部長発言は、労働者Xに対して、残業代の請求をした場合には人事評価が下が る旨を伝えたものであり、労働者Xの権利行使のための行為を不当に阻害するもの であるといえる。
会社Yは、G部長発言は、労働者Xが残業調整等によって会社Yに定められた方法に よって勤怠報告をしていなかった点を指摘して、そのような状況で残業代請求をすることの問題点を指摘したのみであり、労働者Xの権利行使を妨げる意図はなかったと主張する。
しかしながら、残業調整については 労働者Xのみを非難することはできないものであるし、令和2年3月頃から労働者Xの残業の調査は継続的に実施されていたのであるから、遅くともG部長発言があった時点においては、会社Yにおいても、労働者Xによる残業調整が専ら労働者Xの責めによるものではないことを理解していてしかるべきだったといえる。
そうすると、G部長の意図が会社Yの主張するとおりであったとしても、G部長発言は正当化されない。
したがって、G部長発言は、違法なものといえる。
(4)本件けん責処分について
労働者Xは、A支店での勤務時間中、他の従業員と午後10時30分から約2時間30分にわたって通話をしていた時間について残業代を請求しているところ、当該通話には、会社Yの業務と関係のない話も含まれていたことが認められる。
もっとも、労働者XのA支店からの退出時刻は、前日である令和2年2月2日(休日出勤)は午後10時30分頃、当日は午前1時7分頃(上記電話切断とほぼ同時刻)、翌日は午前2時頃であったことが認められることからすれば、労働者Xは実際に処理すべき業務量が多かったものと推認することができる(上記3日間の残業は、本件紛争が発生する前から労働者Xによって申請され、会社Yにおいて承認されている。)。これを前提にすると、当日、労働者Xは、業務に関連する電話を受けた後に、通話作業をしながら業務を行っていたものと認めるべきである。
そうすると、このような行為が作業密度等の点において問題がないとはいえ ないとしても、それを理由にけん責処分までするのは重きに失し、相当性を欠いているというべきである。
したがって、本件けん責処分は、違法なものといわざるを得ない。
以上によれば、本件減給、G部長発言及び本件けん責処分は違法と評価することができ、これらは労働者Xに精神的な苦痛を生じさせるものであるから、会社Yの安全配慮義務違反を構成し得るものである。
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