【解説】
　民法７２４条１号に定める「被害者が損害及び加害者を知った時」がいつになるかという点が問題になります。
　この「被害者が損害及び加害者を知った時」については、最高裁判例（最判平成１４年１１月２９日民集５６巻１号２１８頁）が、次のとおり判断しています。

　「同条にいう『加害者を知った時』とは、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な程度な状況のもとに、その可能な程度にこれを知ったときを意味するものと解するのが相当である」
　として、加害者に対して損害賠償請求ができる程度に、加害者の情報を知った時から時効が進行すると考えられています。

▷　では、具体的にはどのような情報を知った時になるのでしょうか？
　一般的に、被害者から、加害者に対する損害賠償請求が訴訟等により可能になるのは、加害者の名前と住所を知った時であり、
　過去の裁判例においても、加害者の住所氏名を知った時点が消滅時効の起算点であると判断しました（東京地判平成２４年６月１９日）。

　そのほか、配偶者が他方配偶者の養育費不払いに対して、給与を差し押さえるために他方配偶者の戸籍謄本を取り寄せた際に、初めて他方配偶者の不倫相手が判明したことから、戸籍謄本を取り寄せるまでは消滅時効は進行しないと判断した裁判例（東京地判平成１９年９月２８日）があります。
　また、配偶者が他方配偶者と不倫相手との間で産まれた子を、他方配偶者が認知した事実を、取り寄せた戸籍謄本によって知ったという事案においても、配偶者が戸籍謄本を取り寄せた時点をもって消滅時効の起算点とすると判断した裁判例（東京地判昭和５６年１月２８日）もあります。

　このように、婚姻期間中に不倫関係にあったことが、数年経過した時点で発覚した場合であっても、不倫相手の氏名や住所を知った時から消滅時効が進行すると考えられているため、慰謝料を請求することは可能になります。

　したがって、頭書のケースのように、５年前の不倫が現在発覚した場合であっても、不倫相手の氏名や住所を知らない場合には、慰謝料請求をすることができると考えられます。